中小企業をとりまく問題を整理する

★☆☆ 読みやすい(誰でも読めます)

細密な画像が多いため、PCかタブレット端末で読むことを推奨します!

このレポートでは、中小企業をとりまく問題を整理したいと思います。

ここで言う「問題」とは、 “problem” (解決すべきトラブル)のことではありません。そうではなく、 “issue” (議論すべきテーマ)を意味しています。

中小企業は、さまざまなイシューに囲まれています。このレポートを読んでいただければ、研究者がいつもどのようなことを考えているのか、なんとなく把握できるはずです。

それでは、よろしくお願いします。

目次

はじめに

優れた研究は現場から。

中小企業をとりまく問題にいちばん詳しいのは、もちろん現場の方々です。だから私は、現場の声を聴くことから研究を始めました。

このレポートは、インタビューに協力していただいた22人の方々の《語り》をつなげることによって誕生しました。日本テレビの番組「鉄腕ダッシュ」の人気企画、『ゼロ円食堂』をイメージしていただけると、このレポートの作られ方が想像しやすいと思います。

『ゼロ円食堂』のコーナーでは、農家さんや食品加工会社さんが、「こんなもので良ければどうぞ」と言って、規格外品や切れ端をタレントにプレゼントします。タレントは、そのような食材を調理して、もとの食材からは想像もつかないような料理を完成させます。

それと同じようなプロセスを、このレポートでも行いました。調理方法については別の記事で解説するので、この記事では完成した料理を味わってほしいです。

それでは、中小企業をとりまくイシューを見ていきましょう。

調理方法についてはこちら!

① 「岩盤」と呼ぶべきもの

おそらく最大のイシューがこれです。

高度経済成長期から1980年代中盤までの経済拡張期は、ひとことで言えば「モノが足りない時代」でした。モノは作れば売れるし、店に並べれば売れます。典型的な《語り》としては、「店を開けていれば客が来た」、「仕事は腐るほどあった」、「仕事は向こうからやってきた」といった感じです。業種業界を問わず、このような《語り》が聞かれました。

この時代に人格形成を果たした経営者は、「昭和のハビトゥス」と呼ぶべきものを身につけます。ハビトゥスというのは社会学の用語です。簡単に言えば、その人のOS(オペレーティングシステム)を意味します。考えたり行動したりするときの「型」がハビトゥスです。

昭和のハビトゥスというのは、たとえばマーケティングという発想がなかったり、会計をまるで理解していなかったり、売上至上主義だったり、といった感じです。「モノが足りない時代」には、このようなハビトゥスが適合的だったのですね。むしろ、余計なことを考えず、とにかくモノを作ったり流通させたりしていれば、それでよかった時代でした。

しかし、経済拡張が終わり、モノが飽和した時代になると、昭和のハビトゥスを身につけた経営者は行き詰まってしまいます。令和の時代に、いまだに「昭和の実践」を続けているのですから、行き詰まるのも当然です。昭和の実践というのは、たとえば感情や慣習ベースの意思決定をしたり、業界内の安売り競争に参加したり、ただの下請としての仕事にしがみついたり、といった感じです。時代の変化に対応できていない企業のなんと多いことか。

このように見ていくと、「変化できない」ということが、重要な論点として浮上します。どうして中小企業は変化できないのか。技術革新への抵抗、業界構造が「モノが足りない時代」に適合していて脱却できないこと、消費者を相手にすることの難しさ、経営者たちにビジョンがないこと、などが変化できない要因ではないか、という《語り》が聞かれました。

もちろん、素晴らしい中小企業はたくさん存在します。それでも、中小企業の大多数は「昭和のハビトゥス」から脱却できていません。1990年代以降の日本の経済停滞については、経済学者やジャーナリストがさまざまに分析していますが、私は「昭和のハビトゥス」が広く残存していることも主な要因のひとつだと考えています。

「モノが足りない時代」に適合的だった「昭和のハビトゥス」は、大多数の中小企業に残存し、そこから「変化できない」まま「昭和の実践」を生みだし続けています。

私は、これを日本経済の「岩盤」と呼ぶことにしました。

この「岩盤」をどうにかしないことには、日本経済の将来は暗いままでしょう。なぜ「岩盤」が形成されたのか、この「岩盤」はどのように維持されているのか、どうしたら「岩盤」を突破することができるのか。これは研究者が取り組むべき重要なテーマです。

「ハビトゥス」について詳しく知りたい!

② 優れた「経営」の実践

どうすれば、優れた「経営」ができるのか。

これは研究者だけでなく、経営者もずっと探求している問題だと思います。

今回のインタビューでは、大きく2つのテーマが浮上しました。「付加価値を高める」というテーマと、「思想のある経営」というテーマです。

「付加価値を高める」方法としては、次のような《語り》が聞かれました。たとえば、難しいことをやる、提案型の営業スタイルを採用する、取引先からの信頼を勝ち取る、ストーリーを打ち出す、情報の処理と流通を引き受ける、など。

「思想のある経営」としては、次のような《語り》が聞かれました。たとえば、人間性を向上させる、業界の未来を作りたい、日本のために仕事をする、など。

インタビューのなかで、2つのテーマの微妙な印象の違いに気づきました。「付加価値を高める」というのは、企業として「生き残る」ための手段という印象を受けました。一方、「思想のある経営」は、企業として「善く生きる」ことそのものという印象を受けました。

おそらく、経営危機に瀕した中小企業は、まず「生き残る」ことを目指して経営改革をするのでしょう。そして、「生き残る」ことが現実的に保障された状態になってきてから、ようやく「善く生きる」ことについて考え始めるのだと思います。

③ 「変化する」ということ

一方には、「岩盤」と呼ぶべき中小企業の大群があります。

その一方で、素晴らしい経営をしている中小企業も多く存在します。

この2つのグループを架橋するテーマが、「変化する」ということです。

もちろん、創業当初から素晴らしい経営を続けてきた会社もあるでしょう。しかし、素晴らしい経営をしている会社の大部分は、おそらく何らかのきっかけで「岩盤」から脱出した会社なのではないでしょうか。MGコミュニティには、そのような会社が多いと思います。

どうしたら会社は「変化する」のでしょうか。「岩盤」の中小企業が、素晴らしい経営をする中小企業へと生まれ変わるには、どのようなきっかけや努力が必要なのでしょうか。

今回のインタビューでは、「社長が変われば会社は変わる」という《語り》が共通して聞かれました。社長がこのままではダメだと気づいて一念発起し、何らかのアクションを起こすことが重要なようです。たとえば、PQ主義をやめるとか、ただの下請から脱却しようとするとか、大手と正面から戦うことをやめるとか、こういったアクションが会社を変えます。

「岩盤」から脱出する中小企業を増やすこと、つまり「変化する」中小企業を増やすことは、中小企業で働く人々の福祉のためにも、日本経済の将来のためにも重要です。

私は、ここまでの3つがとくに重要なイシューだと考えています。このままのペースで書いていくと、このレポートがとんでもなく長くなってしまうので、ここからは簡単なコメントにとどめます。

④ 中小企業の「労働市場」

研究者として、絶対に外せないイシュー。

中小企業部門は、大企業部門よりも圧倒的に賃金水準が低いです。また、人手不足の影響を、中小企業はより強く受けています。こういったテーマを、個別の中小企業の問題としてではなく、日本経済の構造的な問題として考える必要があります。

⑤ ヤバい会社の大群

ジャーナリズムを賑わせるようなイシュー。

中小企業を考えるうえでは、このような「ヤバい会社の大群」についても議論する必要があります。めちゃくちゃなことをやっているヤバい会社がきちんと淘汰されるような仕組みを整えないことには、被害者を減らすことができません。

⑥ 職人の世界

「職人の世界」と呼ぶべき独特な空間があります。

さまざまな業種業界に、職人の世界が存在します。この職人の世界は、どのように形成され、どのように維持されているのか。これをきちんと解き明かすことができなければ、日本経済を本当の意味で理解したとは言えないでしょう。

⑦ いわゆる「外部環境」

個々の中小企業ではどうしようもできない領域です。

もともと中小企業研究は、マルクス経済学の影響を受けた研究者が多い業界でした。マルクス経済学は、「資本による労働の搾取」とか「大資本による中小資本いじめ」という構図で世界を説明しようとするので、外部環境についての議論は活発に行われてきました。

ただし、それが中小企業研究の主要な問題なのかというと、私はちょっと違うと思います。これはむしろ、「岩盤」とセットで論じられるべきテーマでしょうね。

マルクス経済学的なパラダイムについて

⑧ 中小企業の「存立基盤」

何が中小企業の経営を支えているのか、というテーマです。

⑨ 中小企業の「異質多元性」

ひとくちに「中小企業」と言っても、そのなかにはさまざまな会社が含まれます。中小企業というのは、ほんとうに雑多な集まりなのです。これを中小企業研究の世界では、「中小企業の異質多元性」と呼ぶことになっています。

研究者は、「中小企業」という言葉をもっと慎重に使うべきでしょう。特定の中小企業にだけ当てはまることを、まるで全部の中小企業に当てはまるかのように主張してはいけません。中小企業を分類したり整理したりする試みも、もっと行われてよいと思います。

まとめ

こちらが、中小企業をとりまく問題の全体像です。

  • 「岩盤」と呼ぶべきもの(ブラック、中央)
  • 優れた「経営」の実践(ターコイズ、右側)
  • 「変化する」ということ(ブルー、中央右)
  • 中小企業の「労働市場」(イエロー、中央右下)
  • ヤバい会社の大群(レッド、中央左上)
  • 職人の世界(グリーン、中央左)
  • いわゆる「外部環境」(オレンジ、左上)
  • 中小企業の「存立基盤」(グレー、左下)
  • 中小企業の「異質多元性」(パープル、中央左下)

このレポートのポイントは、中小企業をとりまく9つの問題が、インタビューのなかから浮かび上がってきたということです。研究者が既存の理論を押し付けたのではなく、現場の方々の《語り》をつなぎあわせるなかで自然と立ち上がってきたのが、このマップなのです。

9つの問題のなかで、私がとくに重要だと考えているのは、次の3つです。

  • 「岩盤」と呼ぶべきもの
  • 優れた「経営」の実践
  • 「変化する」ということ

このうち、2つ目の『優れた「経営」の実践』については、豊富な研究蓄積があります。また、3つ目の『「変化する」ということ』についても、それなりに研究が行われています。

しかし、1つ目の『「岩盤」と呼ぶべきもの』は、ほとんど研究されていません。日本経済の将来を考えるうえでは外せない論点なのですが、なぜか未開拓領域のまま残されているのです。私は、この論点をしばらく掘り下げてみようと考えています。

このレポートでは、中小企業をとりまく “issue” を整理しました。研究者がいつもどのようなことを考えているのか、なんとなく把握できたのではないでしょうか。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

このレポートの作成プロセスはこちら!

協力していただいた方々

インタビューに協力していただいた方々を紹介します。

今回は、22名の方々にご協力いただきました。

以下、あいうえお順です。

  • 阿黒利則さん(フォレスト株式会社)
  • 阿部飛鳥さん(空風工務店)
  • 大鎌幸雄さん(大鎌電気株式会社)
  • 木村正士さん(GOLGO社労士事務所)
  • 黄山琢真さん(有限会社黄山金属プレス工業所)
  • 熊谷佳之さん(株式会社いれ歯やさん)
  • 小島仁さん(株式会社小島マネジメント)
  • 雑古勝弘さん(株式会社KMTコーポレーション)
  • 鹿間大さん(有限会社鹿間工業)
  • 重見睦揮さん(株式会社三八商会)
  • 柴田誠一さん(株式会社プリムスクリエイティブ)
  • 住田努さん(株式会社スミロン)
  • 高田庄平さん(ベジパレット)
  • 中村正紀さん(株式会社ナカテック)
  • 梨木彩加さん(ペアコム株式会社)
  • 西村拓朗さん(株式会社ザカモア)
  • 東直斗さん(株式会社クリアー)
  • 平松洋一郎さん(株式会社ヒラマツ)
  • 松平百史さん(株式会社Matsudaira)
  • 柳田敏正さん(株式会社柳田織物)
  • 矢野正弘さん(株式会社スワロースポーツ)
  • 山田大輔さん(愛知アサヒ販売株式会社)

みなさま、本当にありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします。

みなさまへのお願い

「西大成の研究室」では、研究にご協力いただける方を募集しております。もし、インタビューや会社見学が可能でしたら、こちらのコンタクトフォームからメッセージを送信していただくか、もしくはFacebookでメッセージを送っていただけると助かります。どうぞよろしくお願いします。

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