清水馨『中堅企業の質的成長』(中央経済社、2024年)

★★★ かなり専門的(研究者や学生が対象)

本稿では、清水馨『中堅企業の質的成長:240社の社長インタビュー調査から』(中央経済社、2024年)をレビューする。なお、同書は同氏の博士論文が元になっている。

私は、同書を極めて低く評価する。

その理由は、以下の3つ。

目次

中堅企業論はすでに役割を終えている

清水は、本研究を「中堅企業論」に位置づけている。

しかし、管見では、中堅企業論とは1960年代から1980年代にかけて流行したものであり、その機能はマルクス経済学的中小企業論を解毒することであった。

そもそも「中堅企業」という言葉を生みだした中村秀一郎は、1960年代初頭まではバリバリのマルクス経済学者であって、大資本による中小資本の収奪、中小資本による労働者の収奪、そして全機構的な収奪構造により中小資本の地位が固定化されてしまうことを問題視していた。ところが、1960年代にはいると、収奪構造により地位が固定化されているはずの中小企業が急成長する事例が目立つようになる。これはマルクス経済学では説明がつかない事象であって、それに目をつけた中村は、マルクス経済学に反旗を翻したのであった。

このような概念形成過程からして、中堅企業という言葉は、マルクス経済学における「中小企業=被収奪者」という観念を批判するための機能しか持っていないのである。それゆえに、マルクス経済学的中小企業論と中堅企業論は双生児であって、前者が収奪理論を強く主張すればするほど、後者はそれを強く批判する。この殴り合いが、1960年代から1980年代に続いた。

この殴り合いは、中堅企業論の勝利に終わり、マルクス経済学的中小企業論は没落の一途をたどった。時代の流れから考えると、たとえ中堅企業論が勝利しなくともマル経は没落していっただろう。しかし、中堅企業論はマルクス経済学批判としての機能しか持っていないため、相手方が没落すれば、当然こちらも没落する。ふたつの陣営は互いに批判の応酬を繰り広げていたが、結局は運命共同体なのであって、マルクス経済学の解毒剤として役割を全うした中堅企業論もまた、過去の遺物として忘れられていった。

これを無理やり掘り起こしたのが清水馨氏である。清水は、過去には中堅企業論が盛り上がっていたが現在はほとんど誰もやっていない、だから自分が中堅企業を研究するのだ、と述べている。しかし、これは研究の自己目的化に過ぎない。

経営学としての意義はない

清水は、経営学の研究として自身の中堅企業論を位置づけている。しかし、私の見るかぎり、本研究に経営学としての意義はない。

清水が同書で述べていることは、すべて既存の経営理論で説明可能である。既存の経営理論というレベルではなく、すでに古典となった理論で説明が可能である。

清水は、既存の経営学は大企業を対象にした知見だ、と一刀両断する。しかし、これは明らかに間違っている。既存の経営学は、すべての企業に普遍的に適用可能な経営の法則性を明らかにするために積みあげられた知見であって、企業規模に関係なく通用するものである。このことを理解せず、既存の経営学は大企業研究だからダメだというのは藁人形論法である。

これ以上書くとオーバーキルになるので、この論点については打ち止め。

インタビューが活かされていない

本研究の最大のセールスポイントは「240社の社長インタビュー調査」であろう。これは副題にもなっている。しかし、それがまったく活かされていない。

その理由は、すでに説明した内容で充分である。せっかく時間と労力をかけて(清水氏だけでなくインタビュー相手の社長さんたちも時間と労力をかけている)インタビューをしているが、中堅企業研究という位置取りのセンスのなさと、経営学の蓄積に対する無理解によって、せっかくの素材が死んでいる。

これ以上、本研究を批判しても意味がないので、私ならどうするかを書いてみる。

言うまでもなく、素材は素晴らしい。

240社の社長にインタビューをすることは本当に大変である。だからこそ、どうしたらこの素材を活かせるかを考える必要がある。

私なら、経営学ではなく社会学や人類学の立場から、「中堅企業経営者のリアリティ」を描き出そうとするだろう。二代目や三代目、すなわち会社を継承することを運命づけられて育った人たちが、どのような苦労や苦悩を経験しているのか。それなりの社員数がいるからこそ、社員たちに給料を支払い続けることの負担と責任は重いが、それをどのように引き受けているのか。社長たちは、どのようなストーリーや世界観を構築して、厳しい状況をやりすごしているのか。こういった視点から、社会学的な接近を図るのがよいと思われる。


この研究を博士号審査に通した佐藤和にも反省すべきところがあるのではないか。

あるいは、反省すべきは日本の学術界か。

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