関智宏『現代中小企業の発展プロセス』(ミネルヴァ書房、2011年)

★★★ かなり専門的(研究者や学生が対象)

この記事では、関智宏『現代中小企業の発展プロセス:サプライヤー関係・下請制・企業連携』(ミネルヴァ書房、2011年)をレビューする。

着眼点は鋭いが、それをうまく論文に加工できていない。いわば、磨かれていない原石のような論文である。なんとも、もったいない研究である。

目次

私なりの要約

関氏は、この研究の主題を「日本における製造業における企業間受発注関係のなかでの受注企業の企業発展(p. 8)」と述べている。

本書を実質的に貫く概念は、「関係性レント」である。関係性レントとは、特定の企業間取引関係が継続することによって獲得される超過利潤であり、取引関係そのものが持つ価値を指す。関氏は、中小製造業の行動と存立様式を、「いかにして関係性レントを獲得するか」という補助線によって読み解こうとする。ただし、この補助線を、著者自身はあまり明言しない。著者は、自分自身の研究を整理できていないと思われる。

本書の主張は次のように要約できる。

高度成長期から1980年代にかけて、多くの中小製造業は、大企業を中心とした垂直的なサプライヤー関係(下請取引関係・系列関係)のなかに従属的な位置を占めることによって、関係性レントの分け前にあずかってきた。関係性レントの分配はアセンブラー側に大きく偏っていたものの、市場全体が拡大するなかでは、受注側の中小企業もレントの一部を享受できた。この時期のサプライヤー関係は、効率性(国際競争力の源泉)と問題性(分配の非対称性)を同時に内包していた。

しかし、1990年代以降、市場の拡大が鈍化するにつれて、旧来の存立様式は機能しにくくなった。アセンブラーがサプライヤーへのコスト削減圧力を強めるなかで、従属的取引関係から関係性レントの分け前を得るという戦略は、中小企業の企業発展をもはや支えられなくなった。

こうした状況のなかで、中小製造業には関係性レントを獲得する新たな様式が求められるようになる。本書の第4章以降に収められたケーススタディは、その新たな様式を経験的に描き出すものである。関氏が提示するのは、中小企業間の自律的な連携を通じた関係性レントの獲得という戦略である。従属的なサプライヤー関係に代わる「自律的」な企業間関係を構築することで、中小製造業は新たな発展の可能性を見出すことができる。これが本書の核心的な主張である。

ただし、この要約はあくまで私なりの要約であって、本書には明示されていないストーリーラインである。本書の具体的な内容については次節で提示する。

各章の批判的読解

序章 サプライヤー関係と中小企業連携

関氏は序章において、ウィリアムソンの取引費用論とリチャードソンのケイパビリティ論という企業境界論の文脈に自らの研究を位置づける。しかしこの理論的位置づけは、いわば博士論文的な学術的アリバイ作りの域を出ず、研究課題との接続という点で問題がある。

まず、リチャードソンのケイパビリティ論への言及は、その必要性が疑わしい。序章で言及されるにもかかわらず、以降の章でこの概念が実質的に機能することはない。また、「ケイパビリティの議論は、TCEアプローチに動態的視点を盛り込んだという点で意義がある(p. 7)」という記述は、理論的に不正確である。取引費用論とリチャードソンのケイパビリティ論は、理論的起源も基本的前提もまったく異なる独立した理論系譜に属しており、後者が前者の動態的拡張であるという理解は両者の関係を誤って描いている。

より根本的な問題は、企業境界論という理論的枠組みと「受注企業の企業発展」という研究課題の接続が不明瞭なことである。企業境界論は、企業間関係のいかなる統治形態が選択されるかを説明する理論であって、企業発展のプロセスに対して直接の示唆を与えるものではない。本書は企業境界の研究ではなく、企業発展の研究である。

本来、序章でなされるべきは、関係性レント概念の丁寧な導入と、その概念が中小企業研究にとっていかなる可能性を持つかの提示であった。後に見るように、本書の実質的な論理はレント概念によって構成されており、そこから議論を出発させるべきであった。

第1章 サプライヤー関係のダイナミズム

本章の実質的な貢献は、「関係性レント」という概念の導入と、その概念が安定的なサプライヤー関係の成立を説明する上で不可欠であることの論証、ただそれだけである。関係性レントが発生するからこそ、アセンブラーとサプライヤーの双方に取引関係を継続するインセンティブが生まれる。この主張さえ読者が理解すれば、本章の目的は達成される。

しかし関氏は、ハーシュマンの「エグジット/ボイス」アプローチを詳細に紹介することに多大な紙幅を費やしており、本筋の議論が見えにくくなっている。エグジット/ボイスの枠組みは、関係性レントの存在を前提としたうえで、サプライヤーの対応戦略を類型化する補助的な概念に過ぎない。これほどの分量を割く必要はない。

既存の論文をそのまま持ってきただけ。

第2章 日本におけるサプライヤー関係

本章は、先行研究を把握しているというアリバイ作りのための章と言わざるをえない。藤田・小宮山論争に始まる下請制研究の系譜と、サプライヤーシステム研究の展開が整理されるが、内容は先行研究の紹介に終始しており、批判的な検討がなされていない。

本来ここでなされるべきは、マルクス経済学的アプローチと効率性評価論それぞれの限界を指摘したうえで、関係性レント概念が先行研究の対立を超える可能性を積極的に提示することであった。しかし関氏は批判的な検討を行わず、ただ先行研究を並べるにとどまっている。

なお、章のタイトルと内容の不整合も指摘しておく必要がある。「日本におけるサプライヤー関係」と題されているにもかかわらず、本章の実質的な内容は「日本においてサプライヤー関係がどのように研究されてきたか」であって、サプライヤー関係そのものの歴史や実態ではない。全面的な書き換えが求められる章である。

第3章 変容期における日本のサプライヤー関係と中小企業

本章は、本書の理論的核心にあたる。「企業間取引関係(特に下請制)研究ならびにサプライヤー研究の新たな展開を試みている(p. 40)」という宣言のもと、レント概念を用いることで「サプライヤー関係の効率性と問題性を統一的に把握(p. 40)」しようとする試みは、おおむねその目的を達成していると評価できる。

本章の要旨を私なりに整理すれば次のとおりである。高度成長期から1980年代にかけて、多くの中小製造業が下請取引関係(系列関係)を選択したのは、安定的な取引関係から生じる関係性レントの獲得を目指したからであった。関係性レントの分配はアセンブラー側に多く偏っていたが、市場全体が拡大するうちは受注側企業も関係性レントの分け前にあずかることができ、その取引関係が生産システム全体の効率性——すなわち国際競争力——を生み出してもいた。これによって、1980年代までのサプライヤー関係における効率性と問題性を統一的に把握することができる。しかし1990年代以降は市場の拡大が鈍化し、「関係性レントを最大化するアセンブラー」と「その分け前にあずかる中小企業」という従来の存立様式が成立しなくなった。そのため、中小製造業は関係性レントを獲得する新たな方法を模索しなければならなくなった。

この論旨は本書全体の議論を支える核心であり、その着眼点は評価に値する。しかし叙述は冗漫であり、不要な議論が本筋の見通しを著しく妨げている。

第4章〜第9章 6つのケーススタディ

第3章までの議論を受けて、第4章以降はケーススタディに移行する。高度成長期から1980年代にかけては中小製造業が従属的地位を占めることによって関係性レントの分け前にあずかっていたが、1990年代以降その存立様式が機能しなくなるなかで、中小企業がいかにして関係性レントを獲得しているかを、ケーススタディを通じて明らかにしようとする。中小企業間の自律的な連携による関係性レントの獲得——すなわち「従属的」な取引関係から「自律的」な取引関係への変容(あるいはその必要性)——が、各章を通じて関氏の示したいポイントである。

しかし各章の叙述は一貫性を欠いており、議論の蓄積感が薄い。各章の底本となったと思われる既発表論文が、十分な修正・統合を施されることなく収録されているためと推察される。書籍として出版する以上、個別論文を統合して一貫した議論を構築する作業が不可欠であったが、その作業が十分になされていない。

終章 中小サプライヤーの発展のために

終章は本書のまとめに相当するが、総括として機能しているとは言い難い。

最大の問題は、第3節「本書のインプリケーションと今後の研究課題」において、「関係性レント」という語が一度も登場しないことである。本書を貫くべき概念的背骨は関係性レントであり、その概念を用いて先行研究を整理し、中小企業の存立形態の変化を分析してきたのではなかったか。そのキーワードが結論部に現れないということは、関氏自身が本書の論旨を十分に自覚していないことを示しているか、あるいは各章の議論を統合する作業が最後まで達成されなかったことを意味する。どちらであるにせよ、書籍としての完成度に深刻な疑問を抱かせる。

関氏は、自分自身が何の研究をしたのか、最後まで明確に把握できていなかったようである。

最終評価

本書に対する最終的な評価は、「もったいない」という一言に尽きる。

関氏が本書において提示した「関係性レント」という概念は、中小企業研究において真に重要な可能性を持っていた。この概念を用いることで、中小企業研究で議論されてきたサプライヤー関係の効率性と問題性を統一的に把握できる。また、1980年代以前から1990年代以降への中小製造業の存立様式の転換(あるいは存立可能性の転換)を、レント獲得様式の歴史的変容として描くことで、中小製造業の行動と発展の論理に対して、先行研究が与えていなかった新たな説明枠組みをもたらすことができる。この着眼点は、真に評価に値する。

しかし関氏は、この概念を概念的背骨として本書全体を貫くことを怠った。序章・第1章では不要な理論枠組み(ケイパビリティ論など)を持ち込み、第2章では先行研究の紹介(ただ紹介するだけ)に紙幅を費やし、第3章ではキラリと光る歴史記述の可能性を提示したものの、第4章以降では既発表論文を十分な修正なく寄せ集めた。そして終章では、自らの研究の最重要キーワードと理論的貢献にまともに言及することなく筆を置いた。

関係性レントという概念を軸に、序章から終章まで一貫した議論を構築していれば、本書は中小企業研究に大きな理論的貢献を果たしていたはずである。その可能性を自ら手放した結果が、本書の叙述的な混乱であり、読者に生じる強烈な違和感の正体である。

研究の素材と着眼点の豊かさに、叙述の構造が最後まで追いついていない。

あまりにも、もったいない。

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