山中篤太郎(編)『中小企業の合理化・組織化』(有斐閣、1958年)を21世紀に読み直す

★★☆ ちょっと専門的(研究に関心のある方々へ)

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変わらない風景

日本の中小企業の生産性は低い、と言われます。

中小企業白書(2024年版)では、大企業、中規模企業、小規模事業者の労働生産性(従業員ひとり当たりの年間付加価値額)が比較されています。労働生産性の中央値は、大企業は605万円、中規模企業は315万円、小規模事業者は168万円となっており、経営規模が小さくなるほど労働生産性が低くなる傾向が明らかに見てとれます。

なぜ、この問題はなかなか解決しないのでしょうか。

実は、まったく同じ問いを、1950年代の研究者たちが発していました。そして彼らは、膨大な調査と議論の末に、ある結論にたどり着いていたのです。驚くことに、その結論は今日でもほぼそのまま通用します。

本稿では、1958年に出版された論文集『中小企業の合理化・組織化』(有斐閣)をご紹介しながら、この問いについて一緒に考えてみたいと思います。


忘れられた共同研究

1948年、日本学術振興会に第118委員会という研究組織が発足しました。ここには当時を代表する経済学者や経営学者が集まり、中小企業の共同研究を行いました。

その研究の集大成が、1958年に出版された『中小企業の合理化・組織化』です。16人の研究者による19本の論文が収録され、中小工業、中小商業、金融、労働など、あらゆる角度から中小企業問題が論じられています。

この論文集には、特筆すべき点があります。16人がそれぞれ異なるテーマを論じているにもかかわらず、全体として一つの結論に収束しているのです。複数の著者が寄稿した論文集としては、なかなか珍しいことです。その理由は、研究者たちが数年にわたって10回以上の全員研究会議を重ね、3日間の集中討議も行うなど、徹底的に議論を積み重ねたからでした。

残念なことに、この論文集は今日ほとんど忘れられています。高度経済成長を境に中小企業研究の関心が変化し、以降の研究者に参照されることなく歴史に埋もれてしまいました。しかし、そこに記された診断は、驚くほど現代的なのです。


なぜ日本だけ、これほど格差が大きいのか

1950年代の研究者たちがまず確認したのは、中小企業の労働生産性が極端に低いという現象が、日本に固有のものだという事実でした。

1950年代の工業統計を日英で比較すると、興味深いことがわかります。イギリスでも、企業規模が小さいほど生産性が低い傾向はあります。しかし、イギリスでは大規模事業所と小規模事業所の生産性の差は1割弱に過ぎません。ところが日本では、小規模事業所の生産性は大規模事業所の半分以下であり、零細事業所に至っては3割ほどしかないのです。

賃金格差も同様です。イギリスでは企業規模の大小で2割弱の差しかないのに対して、日本では6割強もの格差がある。付加価値額よりも賃金が高くなることは普通はあり得ませんから、生産性と賃金が似たような格差構造を示すのも当然ですね。

この比較が示していることは重要です。中小企業の低賃金・低生産性は、資本主義社会に一般的な現象ではありません。それは「日本の問題」なのです。では、なぜ日本ではこれほどの格差が生じるのでしょうか。

現代的な観点から補足すると、1950年代の研究者たちが中小企業の低賃金・低生産性を「日本の問題」と認識していたのは、やや視野が狭かったと言えるかもしれません。当時の研究者たちは「日本資本主義の特殊性」というパラダイムのもとで、日本をイギリスなどの先進資本主義国と比較することで問題を把握していました。しかし後から振り返れば、企業規模による生産性格差は、資本主義経済の発展が遅れた国々——すなわち後進国——に広く共通する問題だったと言うほうが正確でしょう。日本の経験は、「日本固有の問題」というより「後進国に共通する問題」の一例として位置づけ直すことができます。


四つの要因

1950年代末頃の研究者たちは、中小企業の低生産性の要因をいくつか挙げています。ここでは、現代にも通じる四つを取り上げてみましょう。

経営の小規模性

今日の言葉で言えば、「スケールメリットを享受できない」ということです。大量に生産すれば一個あたりのコストは下がり、大量に仕入れれば価格交渉力が生まれます。中小企業はその恩恵を受けにくい。これは今も昔も変わらない構造的な問題です。

解決策として研究者たちが提唱したのは「組織化」でした。協同組合などを通じて、共同仕入や共同販売、共同研究開発を行う。単独ではできないことを、複数の企業が協力することで実現しようというわけです。理屈はシンプルです。

しかし、実現がなかなか難しい。

その理由については、後ほど触れます。

経営管理の前近代性

中小企業の経営者は往々にして、現場の作業者でもあります。その結果、経営そのものに目が届きにくくなる。目標を設定し、計画を立て、数字で進捗を把握し、軌道修正する——こうした近代的な経営管理が、多くの中小企業では十分に機能していないのです。

非科学的な経営、と言ってもよいでしょう。

損益計算書や貸借対照表を、税務や金融機関への報告のためではなく、経営判断のために活用している中小企業が現代にどれほどあるでしょうか。そもそも、きちんと会計を理解している経営者は、現代でもそれほど多くないと思われます。70年前の研究者がこの問題を指摘していたことを知ると、少し複雑な気持ちになります。

過度競争

中小企業が多数ひしめく業界では、過剰な競争によって販売価格が際限なく下落します。工業でも小売業でも、同じ構造が見られます。売上が薄く広く分散してしまうから、誰も生産的な経営ができない。過度な競争が、業界全体を疲弊させていくわけです。

これに対して研究者たちは、業界で協調して競争を制限すべきという立場と、競争を促進して非効率な企業を淘汰すべきという立場に分かれました。意見は割れましたが、無秩序な競争の状態から脱却しなければならないという認識は、全員が共有していました。

非対称な取引関係

下請工場が親工場から一方的に工賃を切り下げられる。卸売業者が取引先の大企業から不当な条件を強いられる。こうした非対称な取引関係も、低生産性の大きな要因です。

ここで問題になっている生産性とは「従業員ひとり当たりの年間付加価値額」なので、価格が上がれば生産性は向上しますし、価格が下がれば生産性は下がります。

系列化によって技術や設備が向上しても、その果実を享受するのは親工場であり、下請工場の取り分は限られる。経営が「安定」することと引き換えに自立性を失うという構造は、今日の多くの中小企業にとっても他人事ではないでしょう。


結局は、エートスの問題

四つの要因それぞれに、処方箋があります。協同組合による組織化、経営管理の近代化、適正競争の実現、取引先への交渉力の確立——どれも正論です。

しかし研究者たちは、あることに気づきます。

正論を語っても、現実はなかなか動かない。

その理由として、第118委員会が最終的にたどり着いたのが、中小企業経営者の「エートス」(精神的態度)の問題でした。

低い生産性、低い賃金、業界内の過度競争、非対称な取引関係——それを「中小企業だから当たり前のこと」として受け入れてしまっている経営者が少なくない。その「諦めの精神」こそが、あらゆる改善への意欲を奪っているというのです。

協同組合を作れば生産性が上がるとわかっていても、「どうせうまくいかない」と思っていれば、組織は動きません。経営管理を近代化すれば収益が改善するとわかっていても、「うちの規模では無理」と思っていれば、帳簿は整備されません。外から組織の「形」を押しつけても、それを支える意志と能力が内部から育っていなければ、意味がないのです。

そして意志も能力も、現状への諦めを捨てることなしには育ちません。

経済構造、企業間関係、経営管理——あらゆる要因を分析し尽くした「残余」として、エートスが浮かび上がってくる。一見すると凡庸な結論のようですが、当時の一流の研究者たちが膨大な調査と議論の末にたどり着いた知見として受け取ると、その重みは違って見えてきます。

さらに厳密な議論はこちら!


21世紀の問い

もちろん、経営者だけに問題があるわけではありません。安価な労働力が供給され続ける限り、経営者が生産性向上に真剣に取り組むインセンティブは弱くなります。業界構造的に、売手や買手から圧力を受けざるを得ない中小企業もあるでしょう。制度的・構造的な変革なしに、経営者のエートスだけを変えようとしても限界があります。

それでも、1950年代の研究者たちの問いかけは、今日でも色褪せていません。

構造的な問題が解決されるのを待つだけでなく、経営者自身が現状への諦めを捨て、収益性の改善に向けて動き出す。その意志と能力なしには、どんな制度改革も十分な効果を上げることはできないでしょう。たとえ中小企業であっても高収益・高賃金は実現できるし、実現しなければならない——この認識が、すべての出発点になるのだと思います。

1958年のこの診断は、21世紀の現在でも、まだ語られ続けなければならないのでしょうか。それとも、そろそろ「治癒」に向かう時が来たのでしょうか。


おわりに

この記事で紹介した『中小企業の合理化・組織化』(山中篤太郎[編]、有斐閣、1958年)は、現代の中小企業研究者にほとんど参照されていません。1960年代から1980年代にかけての経済絶頂期のなかで、1950年代の中小企業研究は忘却されてしまいました。

しかし、そこに蓄積された知見は、今もなお生きています。日本の中小企業が抱える問題に正面から向き合うためにも、この診断をあらためて読み直すことには大きな意義があります。

『中小企業の合理化・組織化』は、国立国会図書館のデジタルコレクションで誰でも読むことができます。機会があれば、ぜひ手に取っていただけると嬉しいです。

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